「…こいず…み?」
繁華街。
若者が遊ぶようなゲームセンター、カラオケ。
そして如何わしい店が立ち並び。
カップル達が休憩したり、泊まったりするような施設なある場所だ。
なんで俺がこんなとこにいるかって。
珍しく土・日の団活が休みで、たまたま誘われた谷口と遊んでいたが、
これまた珍しくナンパが成功してしまった谷口は薄情にも俺を置いて
その子と遊びにいってしまったため、帰宅を余技なくされたからだ。
そして帰宅するためには青少年には場違いな場所を通らなければならない。
そこでまさか。自分の最愛の人が美女とホテルから出て来る所を目撃しなければならないなんて
なんて…最悪なんだ。
「おや。奇遇ですね。こんなところで何を?」
動揺することもなくそう聞いてくる古泉が恨めしい。
「一樹…?友達なの?」
「ええ…そんなようなものです。」
隣の美女が古泉を一樹と呼ぶ。
ホテルから出てきたこいつをみて凍っていたかのように冷たくなっていた俺は
その二人の会話でカッと全身が熱くなるのを感じた…そう怒りで。
「お前なにしてたんだ?」
できるだけ平静を装って声をかける。
「野暮ですね。見れば分かるんじゃないですか?」
クスクスと笑い声が聞こえ、隣の美女が初心な少年をからかうなと古泉に言っている。
ダメだ。涙が出て来る。
その涙を見られまいと古泉たちに背を向けて、家の道を全力で走りだす。
その道すがら。ガンガンと痛む頭で繰り替えし考えていた。
古泉は俺が好きだ。って愛しているって。
何度も囁かれたよな。
俺もそれに答えて。唇を何度も重ねて…
羞恥を隠しながら何度もつながりあった。
あれはなんだった。
さっき見た光景は何だ。
全て嘘だった?
嘘…?
そうだよ…な。
あんないい男が俺だけを好きだなんて嘘だよな…
きっと。
きっとあれが本命の彼女だったんだろう。
「っは…はぁ。古泉…っう…」
もう走れない。
息が切れる。
涙が止まらない。
公園のベンチで頭を抱える。
「見つけました。」
そう声が降る。
「あ…」
古泉一樹がそこにたっていた。
「な…んで?」
「愛しい人が泣いていたら駆けつけるのが恋人の役目でしょう?」
恋人…?
「何を…?嘘をつくな。さっきの綺麗な人がお前の恋人だろう?」
「…何を言っているんですか?彼女はそんなんじゃないですよ。」
やれやれと言いたげな声と表情で俺をみる。
「あれだけ毎日愛を囁いたのに信じていただけてなかったんですか?」
「…それを信じられなくなるような光景を今さっき見たんだから仕様が無いじゃないか。」
「…泣いてらしたんですね。」
俺の言葉を無視して、指の先で涙を拭われる。
「ショックを受けたんですか?」
「あっ…当たり前だろ!」
カっと顔が赤くなる。
「んふ。…うれしいです。彼女は、あなたにショックを受けてもらうための。
ただそれだけのために身体をつないだ相手ですので、お気になさらずに。」
そう言われて抱きしめられる。
何か違和感を感じることを言われたような気がするが
安心するこの温度に抱かれると細かいことはどうでも良くなるきがする。
…こんなことまでして俺の愛情を感じたいだなんて
古泉が俺を好きなのは間違いないってことだろう?
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