「最近冷たくないですか?」
近頃、僕には恋人というカテゴリーに属する相手ができた。
ずっと片思いだった…。
もし思いを告げたとしても周りから祝福されないであろう相手であったから
この恋を実らせることなんか考えていなかった。
でも。積もりに積もったこの想いが爆発してしまい。
好きです。帰り道でつい告げてしまった彼からの返事は
蔑みや軽蔑するような言葉ではなく
「俺もお前が好きだったんだ。」
ずっと僕と同じ気持ちだったと、頬を染めて告げられた時は夢でも見ているんじゃないかと思いましたよ。



それから、神の鍵である彼と恋人同士になっただなんて
大っぴらにはできないので、もっぱら僕の部屋で逢瀬を重ね。
若い盛りの僕たちは何度も身体を重ねあった。
が、付き合って3ヶ月ばかりが立とうとしているところで
彼の態度が急変した。

部屋には来てくれるのだが、
今までの甘い雰囲気はなく、セックスはおろか、キスも抱きつくのも
手をつなぐのも全て拒否されていた。

正直きつい。
これはきつい。何か気に障るようなことでもしたかと思ってストレートに聞いてみたが。
「それはない。」
…即答されてしまった。

なんだかメールの内容まで素っ気無く見えるのは僕の気のせいなのかどうなのか。

ついには家に来るのまで拒否されてしまった。
毎週の用に週末は僕の家で過ごしていたというのに
「悪い。今週末はちょっと用事があるからいけない。」
用事?僕以上に大事な用事ってなんです??
「…ほ。法事だよ。」
それなら…仕方ないですね。
「それに。まぁ、たまには1人で週末を過ごすのも悪くないだろう?」
いやいやいやいやいやいやいや。
悪いです。僕は本当は24時間毎日あなたといたい位ですよ。
とは言えない雰囲気で。
むしろその一言、結構ショックです。
たまには1人になりたいんだと、拒絶されたようで。
ズキズキと心が痛みだした。
「分かりました」
そう精一杯自慢の作り笑いで返すのが僕の限界だった。







そんなこんなで、久しぶりに1人で過ごす土曜日。
部屋にいると鬱々してしまうので…気分転換に買い物にでも行こうと、
繁華街まで足を伸ばしていた。

どうもこのまえの彼の一言が心臓に突き刺さったままで
何を見ても楽しくない。
帰って、彼に夜電話でもして、少し話しができたら楽になるだろうかと
折角ここまで来たのに勿体無いが仕方がない。
帰ろうと踵を返すと、とてもとても見覚えのある顔がそこにあった。

「…げ。古泉…」
げ。とは何ですか…げ。とは。
「あなた…法事のはずじゃ…?」
思わず顔が強張ってしまう。強張っているのに笑顔になるとは何事だろう僕の表情筋。

彼の背後からこれはまた見たことある顔が出てきた。
「おーい。どうしたキョン。何固まってんだ。女の子いっちゃうぞ…って古泉一樹。奇遇だなー。」
能天気に笑う谷口氏。たった今いった言葉に僕の頭の中で何かが切れた。

「ちょっまてっ。落ち着け古泉!!痛いだろう!話せよ」
ぐんぐん彼の腕を掴んで、僕の家へと急いだ。
谷口氏には彼に用があるのですみませんが、彼を借りていきますと。
絶対零度の表情で谷口氏につげると。その僕剣幕に押されたのか。
「お…おぉ。またな…キョン」
そういって僕たちを見送ってくれた。









家につくなり、我慢できなくなって玄関で彼を詰問した。
「…で?僕に嘘ついて出かけて女の子をナンパですか?」
「いや…それは谷口が1人で盛り上がっていただけで…」
嘘をついたことは否定しないんですね。
「…何故嘘をついたんですか?」
「っ!それは…」
「それは…なんです?」
「…………。」
彼の視線が僕からはずれ、がどんどんと床へ落ちていく。
その顔を掴み、上を向かせる。
「だんまりですか?そんなに僕に言えない事ですか?
なら代わりに言って差し上げますよ。僕にあきたなら素直にそういって下さればいいのに。」
「…ちっちがう!!」
「なにが違うんですか?」
一瞬。
泣きそうな程に顔を歪めてぽつりぽつりと。
彼が白状しはじめた。

「…クラスの女子が呼んでた雑誌を見せて貰ったんだ。
で、その…雑誌の企画の記事で…。倦怠期カップルの特集をしてて…
そし…たら…あきられるタイプの子っていうのに俺があてはまってて…」
語尾が消えそうなほど小さい。
「3ヶ月たつカップルで…付き合い始めからずっとベタベタしてて…
そんな子ほど飽きられたりするのが早いって…かいてあって…」
泣き出しそうなのか
喋り方がまるで、子供のようだ。
「…俺。古泉に嫌われたくないから。飽きられたくないから。距離おいて。ベタベタしないように我慢して…
でもお前に会うと…どうしても我慢できないから…今日は会うのやめて…」
…で、気分がどうにも落ち着かないから。谷口の誘いに乗って遊びにいったんだ…
と後半彼がいった言葉はほとんど聞こえなかった。

なんて可愛いんだろう僕のキョンくん。
優しく震えてしまっている体を抱き寄せ、耳元で囁く。
「そんなに僕が信用できませんか。不安に思うならおっしゃってくれればよかったのに。」
「で…でもこんなこと俺が考えてるなんて重く思うだろ?」
「いえ、全然。むしろ嬉しいです。
それに僕はあなたが僕を求めてくれないこと。あなたに触れられないことがなによりの苦痛なんですよ?」
僕の肩に額をあてていた彼が顔起こしてマジマジと僕の顔をみる。
「本当…に?」
「本当です。愛してますよ。愛しい人。永遠に。
あなたが僕に飽きたって、僕はあなたを離す気はないほどにね」
顔を真っ赤にしてした固まった彼に僕は口付けをした。

さぁ。我慢させられた分。激しくしますが、それくらい僕を不安にさせた罰です。
我慢してくださいね。




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