別れを告げた次の日。
どういった顔をして彼とこれからの日々を過ごそうかと考えながら、学校へ向かった。が、
その日彼は、無断欠席をしていた。
団長にだまって休むなんて、と涼宮さんは大変ご立腹だった。
…閉鎖空間が生まれるほどに。
僕はとても嫌な予感がしていた。
神人を倒し、家に帰って。彼に連絡をとってみるべきか
いや、あんな突き放した後だ。連絡をとるべきではないだろう…
それに彼のことだ明日には吹っ切れて学校に出てきてくれるだろうと。
携帯を手で弄りながらそんな葛藤と闘っていると
手の中の携帯が震えた。
彼からかと、携帯を開いて耳にあてる。
「もしもし…」
平静を装って電話口にでる。
でも、電話の向こうの相手は彼ではなかった。
「落ち着いて聞いて。」
無機質な声が響いた。
「彼が…死んだ。」
今なんて?
「冗談にしては性質が悪いですよ?」
「冗談ではない。…信じられないならいますぐ私の家に来て欲しい。」
まさか。
まさかまさか。
彼が死ぬことなんて。
そんなこと。
きっと長門さんと協力して僕を騙そうとしているんだろう。
震える足を立たせて僕は長門さんのマンションへ急いだ。
彼女はマンション前で僕を待っていた。
「来て。」
促されるまま部屋へ足を踏み入れる。
いつも訪ねてきても閉ざされてる部屋へと招かれた。
部屋の中央には布団が敷かれていて。
誰か眠っているように見えた。
その誰かは彼だった。穏やかな笑顔を浮かべて眠っている。
「彼はなぜこんなところで寝ているんです?」
僕の問いかけに彼女は瞳をゆらした。
そして僕をジっと見つめたまま。
「今から4時間前。彼は自ら命を絶った。
私にあることを頼んでから。ここに寝かせているのは私の判断。」
「はっ…」
彼の頬に手を添えてみる。
血が通っていない青白い顔。
そして人間として持つべき体温を失っていた。
心臓がドクドクと早鐘のようになる。
「何故…こんな。」
「彼はあなたへの想いを抱いたまま、幸せな記憶のまま時間を止めたいと願ったから。」
「…そんな…。」
そんな。彼がそんな考えに走るなんて考えもしなかった。
「僕の…せいだ。冷たく遠ざける方法しか思いつかなかった僕の…」
「彼はあなたの真意に気づいていた。
そして、これからのことを考え。あなたが完全に自分の前からいなくなってしまう事に絶望した。」
「……」
「そして命を絶った。でもその時、あなたへの想い。幸せな記憶が彼を占めていた。
だからこんなに安らかな顔をして眠りにつけた。」
なんて馬鹿な人なんだろう。
でもこの状況で思うのは甚だおかしいと分かっているが、
嬉しい。僕の脳はきっと麻痺しているからそうおもうのだろう。
「…ひとつお聞きしてもいいですか?」
「なに?」
「彼の願いとは…?」
「彼に関するすべての記憶を、この世界から消すこと。
そうすることによって、この世界の均衡を守った。」
記憶を…?
「僕の記憶もですか?」
「そうするように頼まれている。あなたには幸せに生活してほしいと言っていた。」
そんな。
彼は馬鹿だ。
…だが大抵僕も馬鹿だろう。
「僕も彼が幸せに暮らすことが、僕の幸せだった。
でも、それも叶わない。」
じっと漆黒の目が僕を捕らえている
「…彼は、このままここでずっと眠っているんですか?」
「あなたに合わせたあと、彼を情報分解する。残しておくとこの先影響が出てしまうから。」
それは彼の望むところではない。
そういった彼女の表情はどこか悲しそうだった。
「ひとつ我侭を聞いていただけると嬉しいんですが。」
彼女は僕をここに呼ぶときに既に予想をしていたんではないかと思う。
「…あなたも彼と同じようになりたいと望んでいるの?」
「…ええ。お願いできますか?」
「わかった。彼の隣に寝て」
幸せそうに眠る彼の横になる。
胸の上に組まれた手をそっと握る。
彼女が高速で何かを唱えているのを聞きながら
そっと、彼の唇に口付けた。
彼女の口から最後にさようなら。と聞こえた気がした。
いま僕はとても幸せだ。
きっと彼も。
END
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2人きりになって幸せになったんです。
長門につらいものを背負わせすぎました。
古泉が落ち着いているのは、長門の家に着く前に
心のどこかで最後の結末を決めていたからです。
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