「ねぇ。僕たち終わりにしましょう?」

もう遅い時間だからと帰宅をつげ、カバンを持って立ち上がろうとしたときだった。
さっきまで。甘い雰囲気で身体を重ねてきた相手から
そう突然告げられた。

「え?」

聞こえなかったわけじゃない。
ちゃんと言葉は俺の頭に届いている。が、
何を言っているのかは理解ができなかった。

「…この関係を終わりにしましょう。僕と別れてください。」

さっきまで人の身体を好きにしておいて
いまさらなんだ!とか。
俺のどこがダメなんだ!とか。

言ってやりたいことはあるのに、それは全く言葉にならずに
ただ俺は無表情でそう告げる古泉の顔をただただ見つめた。

「…あなたに飽きてしまったんですよ。ただそれだけです。
最後に抱いたのは同情で、ですよ。」

「な…なんだよ…それ。」

やっと声が喉から出てくれたが、酷く掠れている。

「おや?涙が出ていますよ?
…もしかして僕のことを本当に好きになってしまっていたんですか?」

涙?言われて自分が泣いていることに気がついた。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
頭が痛い。今の古泉の言葉なんだ?
俺だけが古泉のことを好きだった?

スッと心が凍る。

俺が古泉に想いを告白したときの。
あの時のうれしそうな古泉の顔はすべて演技だった?
うそだった…

「お前が今まで言ってくれてたこと…全部嘘だったってことかよ…!」

「ええ。そうなります。」
ニッコリとやっと古泉が微笑んだ。

「それなりに楽しかったですよ。さようなら。」
「っ!!」

気がつくと拳であの綺麗な顔を殴っていた。

そのまま俺は逃げるように帰った。

あいつを殴った手よりも。
心が。心が痛くて死にそうだった。



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