下駄箱を開けると。
そこには、綺麗にラッピングされた包みが入っていた。
こ…これは。
谷口のアホや、ハルヒやまして、
独占欲の強い俺の…恋人という古泉に見られたら
大変というか想像もつかないことになるので
だれにも見られないようにサッとブレザーのポケットにしまった。

待ちに待った昼休み。弁当を食べ終えた俺は、用事があるんだと席をたち
普段誰も近づく事のない、屋上の階段の踊り場でその箱を開けた。
誰かの悪戯だったらその犯人はどうしてくれようかと考えながらな。

「こっこれは!」
これまでの人生生きてきて初めてのことじゃないか!!
例え恋人がいてその相手が男だとしても、
俺だって男の子なんだ、この日だけはちょっと期待をしてしまうんだ。
このモテル男と彼女のいる男しか勝者になり得ない
バレンタインという日にはな。
そしてその期待が叶えられる日が迎えられるとは。
俺は今だったら谷口のアホに少しくらい馬鹿にされても
軽く流せる位には、幸せだ。
一応付け加えておくが、浮気とかじゃないぞ。浮気じゃ。

中には手紙がついていた。
『いつもあなたを思っています。
よかったら、召し上がってください。』
なんて謙虚な内容なんだ。
差出人が書いてないのはちょっと残念というか
まぁ、ホっとした気持ちもあるのが正直なところだ。
せっかくだし、ありがたーく1つ食べてみるかと
箱の中のチョコをつまみ。口の中に放り込んだところで
予鈴が鳴り響いた。
口の中で溶け初めてチョコを味わいながら
俺は教室へ急いだのだった。

5・6時限の授業を終え、いつもどおり部室に向かっているのだが
なんだか調子が悪い。
実はチョコレートはどこかの敵対組織とかの罠だったとか言わないよな…
まぁ気のせいだろうと。
部室の扉を開けると、そこにはもう全員そろっていた。
時にハルヒよ、お前まだ教室にいなかったか?
「あんたの来るのがとろいのよっ!そんなことより!
今日が何の日か知ってるわよね!バレンタインよバレンタイン!!!!」
あー。言われなくても知ってるよ。
「古泉君は山盛りいっぱいチョコレートをもらって寂しい思いはしてないでしょうけど
あんたはどーせ誰からももらってないんでしょ?」
ちっ。うるさい。
俺は1つだけもらったチョコがあることを
表面には出さずに、しかめっ面を作った。俺の演技もなかなかじゃないか?
「そんなかわいそうなあんたに、あたしと有希とみくるちゃんからプレゼントよ!
古泉君は不自由してないだろうけどよかったらもらってね。」
「とんでもない。光栄です。有難く頂きます。」
ニッコリと微笑んで、古泉はチョコレートの包みを受け取っていた。
「…これ。」
と長門からと
「一生懸命つくったので、よかったら召し上がってくださいね。」
特上の笑顔つきで朝比奈さんからチョコを受け取った。
ありがとうございます。とても嬉しいはずなのに
さっき気のせいと決め付けた体調の悪さは気のせいではなかったようで
だんだんと俺の体を悪化させていた。おかげで上手く嬉しさを表現できない。
「ん…?何よキョンあんまり嬉しそうじゃないわね。」
そこを目ざとくハルヒに見つけられた。
「あ…いや。すごく嬉しいんだが、申し訳ないことにちょっと体調が優れなくてな。」
「ちょっと大丈夫?確かに顔が赤いわ…。」
「大丈夫だ。すまん。チョコまで貰った上に心配までかけて。」
あぁ。やばい。体調の悪さを口に出したせいか熱がまた上がってきたようだ。
「あんたもう今日は帰りなさい。」
すまん。今日だけはそれに甘えさせて貰う。
「あの、涼宮さん。もしよければ僕が彼を家までお送りしたいんですが…」
「そうね。このまま1人で帰らせるのも心配だから、お願いするわ。」
おい、お前ら俺の意思は無視か。1人でも別に大丈夫だよと伝えようとして
席をたったが、足がふらついた。これはダメだ。
すまん古泉迷惑をかけるが頼む。
お任せ下さい。と微笑んだ古泉の笑顔は何かを企んでいる顔だったが、
俺にはそれに気づく余裕なんてなかった。




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